マンション寿命50年。それ本当 ?
長年語られてきた「マンション寿命50年」。
だが、築50年を迎えたマンションは本当に寿命を迎え、価値を失うのか。
そこには「評価」と「価値」の違い、そして市場が再定義する現実がある。
本稿ではその実態を紐解いていく。
マンションの寿命は50年
不動産業界だけでなく、一般的にも長くから浸透している通説だ。 高度経済成長期に大量供給された新築分譲マンションは築50年を迎えるころには老朽化が進み、建て替えや解体されるだろう、と言われてきた。
当然、寿命を迎えるという事は資産価値も無くなるという事を意味し、中古での取引も見られないはずである。
だが、不動産の取引事例(改装・リノベーション済み)に目を向けると、50年以上前の1975年までに建築された中古マンションが販売されている事例も少なくはない。
実際、2024年-2025年上期までの取引を確認すると、東京23区では中古マンション全体の取引が16,000件ほどのうち約800件が築50年以上の物件、同様に横浜市では中古マンション全体4,500件のうち約400件の物件が築50年以上の物件であった。
上記のように、寿命を過ぎたと思われる築50年以上の物件でも取引はされているのだ。
どんな物件がある?
では次に、どの様な物件が実際に取引されているのかを見ていきたい。 築年数だけを見れば、築50年超のマンションとして一括りにできるが、取引のデータから上記2エリアにおけるそれぞれの傾向が浮かび上がってくる。
築50年以上の中古マンション取引事例(改装・リノベーション済み)を確認すると、平均的なスペックは下記のようになる。
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【東京23区】
平均坪単価:約260万円
平均面積:約50㎡
駅分数:徒歩7分程度
【横浜市 】
平均坪単価:約195万円
平均面積:約60㎡
駅分数:10分程度
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また、現在の新築分譲マンション市場ではほとんど供給されることのない100㎡を超える大型住戸は、
23区では2件であったのに対し、横浜市では20件以上取引事例が見られた。
上記2エリアの情報を整理すると23区では駅距離等の立地面評価が高く、横浜市では面積が評価されているように見える。
そして、何よりもの評価ポイントは価格面にありそうだ。
現在販売中の新築分譲マンションの平均坪単価は、23区で630万円、横浜市で340万円程度である。
改装・リノベーションを済ませたマンションであるならば、
新築分譲マンションの相場よりも大きく下回る価格で購入することができ、
更には新築では出回らない広い面積を求めることもできるなど、家を持つ際の選択肢が増えるという点で大きく評価されているのである。
だが、ここまでは「築50年」に限った話ではなく、中古マンションの相場としては考えやすいものである。
では一体なぜ「マンション寿命50年」という言葉が長く使われてきたのであろうか。
50年の寿命とは
1970年代に販売された一般的なマンションは想定の耐用年数が50年とされており、築年数の経過とともに、建物価値が減価されていくとされてきた。
相続評価や固定資産税評価は制度上のルールに基づいて算出されるため、中古マンションは想定の耐用年数を超えると評価がされにくくなる。このため、築50年を超えたマンションの建物価値はほぼ評価されず、資産としての価値は大きく下がると考えられてきた。
しかし、「マンション寿命50年」とされていたマンションは現在の改装・リノベーション技術や耐震工事などによって耐用年数を伸ばしており、「寿命」とはあくまでも制度上の評価の話として理解する必要があるのだ。
ここからは不動産関係者に伺った実際に取引された築50年が経過したが、現在も中古市場で取り引きされている中古マンションの例を見ていく。
これら二つの物件の例が示すように、築50年を超えたマンションは、もはや「誰が住むか」「どう使われるか」などによって、価値が再定義されるフェーズに入っている。
一方で、すべての築古マンションが同じ道をたどるわけではない。管理体制が機能していなければ、建物の維持は難しくなり、修繕積立金の不足や急激な値上がりといったリスクも現実的に存在する。長期修繕計画が形骸化しているマンションでは、築年数が進むほど選択肢は狭まっていく。
重要なのは、築年数そのものではなく、その時点の市場環境や立地の再評価、そして管理・更新の状況が、価値をどう見直すかという点だ。この視点は中古マンションに限られない。今供給されている新築分譲マンションも、将来どのような相場で、どのように評価されるかによって、価値の持ち方は変わっていく。
マンションの寿命とは、年数で一律に決まるものではなく、市場と評価の変化の中で、繰り返し問い直されるものになるだろう。