マンション寿命50年。 それ本当?
ユニフィットの社員が、担当プロジェクトの広告実績を紹介したり、日々感じていることなどを書き綴っています。またマーケッターが市場の動向を切り裂くフリーペーパー『MAiL』や世の中の(生活者の)トレンドやニーズ、価値観を把握し、広告制作へ反映するために行っている定量調査の分析も公開しています。
第14回2026年度版「住みたい田舎ベストランキング」において、
千葉県いすみ市が若者・単身世帯、子育て世帯、シニア世帯の全項目で1位を獲得した。
全世代から評価された事実は、地方政策のみならず、不動産・住宅業界にとっても重要な示唆を含んでいる。
本稿では、世代別の取り組みを整理した上で、具体的な住宅・暮らしの事例を紹介し、
最後に不動産業界として何を読み取るべきかを考察する。
いすみ市の若者・単身世帯向け施策の本質は、移住を「決断」ではなく「プロセス」として設計している点にある。東京から約70分という距離は、仕事を完全に切らずに地域と関わる余地を残す。移住支援金や住宅改修補助は、生活の初期コストを下げる役割を果たしているが、それ以上に重要なのは、移住者が地域の中で浮かない空気感だ。
<具体事例①>
30代単身・IT系フリーランス男性
都内で働きながら、まずは週末利用を目的に築40年の平屋を購入。価格は首都圏では考えられない水準だったが、購入後すぐにフルリノベーションせず、最低限の改修に留めた。
二拠点生活を1年続けた後、仕事の一部をオンライン化し、現在は準定住状態。
「住みながら決められる」「無理に完成させなくていい」という余白が、地方移住への心理的ハードルを下げたという。このように、いすみ市では「最初から理想の家を完成させる」必要がない。
不完全な住まいを許容する文化が、若者層の流入を支えている。
続いて、子育て世帯から高い評価を得ている理由は、給食費の全額無償化に代表される子育て支援だけではない。医療費助成、保育・教育環境の整備、自然体験を重視した教育方針など、「子どもをどう育てたいか」という価値観が明確であることだ。特に、食育や有機農業への取り組みは、単なるブランディングではなく、地域産業と教育を結びつけている点が特徴的である。子育て世帯にとって重要なのは、支援の額よりも「将来への見通し」だ。いすみ市では、子どもが成長しても地域で居場所を持てるイメージが描きやすい。これが、定住意欲を高めている。また、都市部のような過度な競争や比較が生じにくい点も見逃せない。子育ての“息苦しさ”を感じにくい環境が、ランキング評価の背景にある。
【具体事例②】
40代共働き・子ども2人の家族
首都圏郊外のマンションからいすみ市へ移住。
選んだのは、市街地から少し離れた土地に建てた平屋の注文住宅。延床は決して大きくないが、庭と半屋外空間を重視した設計とした。教育費・食費の負担が軽減されたことで、住宅ローンに追われる感覚がなくなり、共働きを続けながらも生活の余裕が生まれたという。
この事例が示すのは、いすみ市では住宅が「人生の重荷」になりにくいという点だ。
支援策があることで、住まいに過度なコストをかける必要がなく、結果として定住につながっている。
そしてシニア向け施策になるが、いすみ市が優れているのは、シニアを単なる福祉対象にしていない点だ。高齢者を“守られる存在”ではなく、“役割を持つ存在”として位置づけている。
在宅医療や介護体制、見守りサービスといった安心の基盤を整えつつも、地域活動や農的暮らし、小商いなどを通じて、シニアが役割を持ち続けられる環境がある。
移住してきた若者や子育て世帯と、地元のシニアが自然に関わる場面も多く、世代間の断絶が起きにくい。結果として、「年を取っても住み続けられる街」という評価が、ランキングに反映されている。これは、施設整備だけでは決して実現しない価値である。
最後に不動産業界の視点で見たとき、いすみ市は極めて示唆的な市場だ。第一に、短期的な価格上昇や投機を前提とした市場ではない。評価されるのは「住む」「使う」ことを前提とした不動産であり、キャピタルゲインよりも生活価値が重視される。第二に、空き家や土地は多いが、目利きなしでは成立しない市場である。再建築可否、農地転用、インフラ条件など、専門性がなければミスマッチが起きやすい。ここに、不動産事業者が単なる仲介を超えて関与する余地がある。いすみ市は、すべての人にとっての理想郷ではない。しかし、「価値観が合う人が、世代を超えて暮らし続けられる街」である。
住みたい田舎ベストランキング全項目1位という結果は、その積み重ねの可視化に過ぎないが、不動産・住宅業界、そして自治体にとって、いすみ市は今後の地方の住まい方を考える上で、極めて示唆に富んだ存在と言えるだろう。