
中古マンション市場が変わる!2026年改正区分所有法の影響。

ユニフィットの社員が、担当プロジェクトの広告実績を紹介したり、日々感じていることなどを書き綴っています。またマーケッターが市場の動向を切り裂くフリーペーパー『MAiL』や世の中の(生活者の)トレンドやニーズ、価値観を把握し、広告制作へ反映するために行っている定量調査の分析も公開しています。
実需×投資のハイブリッド物件として誕生した「民泊マンション」。
自身が利用しない期間を民泊として貸し出せる仕組みを備えており、
ホテル不足に悩まされる観光地の救世主になりうるかもしれない。
本文では実例を紹介しながら深堀していく。
昨今、新築分譲マンション業界で「民泊マンション」という新しい形のマンションが販売され始めた。通常の分譲マンションと同じように販売されるのだが、その最大の特徴は自身が利用しない期間に民泊として貸し出すことができるという点にある。つまり、セカンドハウスや別荘として所有しながら、空いている時期には宿泊施設として運用できるーそんな柔軟なライフスタイル対応型のマンションである【図1】。運営や管理は専門の会社が担うため、オーナーが宿泊客対応や清掃を行う必要はなく、利用しない時期でも部屋を有効活用したいというセミ投資・セミ実需のニーズに支えられているようだ。では一体どのような背景で誕生したのか、そしてその実例を確認していく。
民泊マンションが登場しているのは、札幌や沖縄といった「観光地としての強さ」を持つエリアだ。札幌は夏と冬で明確にピークシーズンが分かれる典型的な観光都市であり、国内外から多くの人が集まる。札幌市の統計によれば、2023年に札幌を訪れた観光客数はコロナ渦前の水準をほぼ回復し、延べ宿泊者数は約1,450万人を超えた【図2】。特にさっぽろ雪まつりや夏の観光シーズンには市内のホテルがどこも満室に近い状態となり、予約が取れない状況が続いている。また、コロナの終息とともに観光需要が回復した沖縄では入域観光客数や観光収入が2024年に過去最高水準を更新し、同様に宿泊施設の需要は高まっている。
こうした背景の中で登場したのが「民泊マンション」という新しい住まいの形である。札幌市においてその先駆けとなったのが「レ・ジェイド札幌大通ザ・タワー(エスコン)」と「モンドミオ札幌大通 南二条(大和ハウス)」だ。また沖縄では「ソルプレサンス 嘉手納マスタースイート(プレサンスコーポレーション)」が販売されており、こちらも一部民泊対応型のマンションとなっている。いずれも新築分譲マンションと、一部の住戸を民泊運用可能とした点が特徴で、観光都市の需要を取り込みながら、通常の分譲マンションとしての魅力も保つという構成を採用している。観光都市という土地の特徴を生かしつつ、新たな不動産の在り方を提示した試みとして、注目を浴びることとなった。ではこれらの売れ行きは如何だったのか。
2024年11月に販売された「レ・ジェイド札幌大通ザ・タワー(エスコン)」では通常住戸に比べ、約1,000万円高い価格設定であったにもかかわらず、民泊住戸39戸が販売開始から半年経過せずに完売した。購入者の内訳は7割が首都圏、2割が関西圏からの購入であり、ほぼ全員がオールキャッシュでの購入であったという。道内からの購入者は1割程度にとどまり、セカンドハウス・別荘として確保する富裕層の需要が中心となった。2025年4月発売の「モンドミオ札幌大通 南二条(大和ハウス)」においても全戸が首都圏と関西圏から購入され、レ・ジェイド同様に55戸の民泊住戸は販売開始から半年経過せずに完売、そして購入者のほとんどがオールキャッシュでセカンドハウスとして購入している。
このように観光都市における新しい形のマンションへは大きな期待感があるが、懸念点も考えられる。民泊マンションは使わない時期に貸し出せば収益が生まれて高効率、というイメージが先行しぱっと見は儲かりやすい不動産に見られるが、収益性を優先すると自身が使いたいハイシーズンに利用できなくなるというジレンマが生まれることも考えられる。セカンドハウスの利便性と民泊運用による収益性はトレードオフであり、両方を最大化するのは難しいという。また、民泊の性質上、宿泊者は日本人に限らずさまざまな国籍・文化背景を持つ。もちろん管理会社が清掃や対応を担うとはいえ、文化の違いによるトラブルや生活マナーの問題が発生する可能性はゼロではない。こういった民泊ならではの懸念も踏まえ、従来の自社マンションブランドをあえて使わず、別のブランド名で販売しているデベロッパーも存在するという。民泊マンションは通常の分譲マンションとは異なる運用リスクが潜んでいることは事前に理解しておく必要がありそうだ。
このように札幌や沖縄といった観光地で、新しいタイプのマンション供給が始まっている。情報はまだ多くないものの、従来の「住むための分譲」とは一線を画した企画が、観光地を中心にじわりと広がりつつあるのは確かだ。こうした動きは、ホテルや宿泊施設との比較よりも、むしろ観光地における不動産の価値のつくり方そのものが変わり始めていることの表れと言える。居住用・投資用・別荘用といった従来の分類だけでは捉えきれない需要が、観光地を中心に生まれてきているのだ。もちろん、従来の不動産制度や税制の枠組みの中で、いきなり市場が大きく変わるわけではない。それでも、観光客が集まる都市からこうした商品が生まれ始めたという事実は、観光地の不動産市況がこれから変化していく前触れと捉えていいだろう。札幌、沖縄に続き、今後は日本各地の観光地でも、「住む」「滞在する」「所有する」の境界をまたぐ新たなマンションのあり方がひとつの選択肢として定着していく可能性がある。